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(今さら聞けない)木工塗装の基礎知識シリーズの第4回目です。
思い立った時に不定期で更新しているシリーズなのですが、木工塗装に関する知識(木材や塗料など)をご紹介しています。

今回のテーマは「塗膜白化の原因とその対処法」。
梅雨入りも間近な今日この頃ですが、ジメジメと蒸し暑い季節に木工塗装を行う際の注意点などをご紹介していきたいと思います。


高温多湿な環境の中でラッカー塗装やウレタン塗装などを行った直後に、かすみが掛かったように白くボケて艶が無くなることがあります。
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こちらは“かぶり”または“ブラッシング(Blushing)”と呼ばれる白化現象(塗膜不良)です。
水性塗料では見られませんが、ほとんどの溶剤型塗料で発生します。

ブラッシングが発生しやすい共通条件は・・・
  1. 蒸し暑いと感じる湿度(約80%以上)であること
  2. シンナー(塗料を希釈するための溶剤)の揮発速度が速すぎること
以上の2点です。

【ブラッシングの原因は“結露”】
高温多湿な環境下でラッカーやウレタン塗料を塗装する時に、その塗膜では何が起きるのでしょうか。
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画像引用:TiSens様
このコロナ禍でアルコール消毒をする機会が増えましたが、その時のひんやりとした冷たさを経験したことがあると思います。
その局部的なひんやり感はアルコールが揮発する時に気化熱を奪うからです。
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塗装面から溶剤が揮発する時にも同様に気化熱が奪われ、塗装面の温度は低下します。
高湿度下ではその僅かな温度低下でも塗装面付近の空気に含まれる水蒸気が液体の水となります。

"塗装された塗料”とその塗装面上に“生成した水分”は“水と油の関係”なので混ざり合うことはなく、それぞれ光の屈折率が異なるので、両者の界面で反射し、白く見えてしまうのです。

【ブラッシングを防ぐ為には】
湿度が高く、気温と塗装面との温度差が大きいことによりブラッシングの原因となる結露が発生します。
塗装時のコンディションを見極めて、出来るだけ湿度を下げるか、塗装面の温度を急激に下げないようにする工夫が必要になってきます。
  • 対処法その1:ヒーターを炊く
    屋内での塗装の場合、結露をしないようにジェットヒーターなどでその場空気を暖めて湿度を下げる方法があります。しかしながら夏場では作業者は暑さで苦しくなりますし、火気には十分な注意が必要になります。

  • 対処法その2:塗料にリターダシンナー(ノンブラ)を添加するか、遅乾型のシンナーを使用する
    シンナーの揮発速度を遅くして、気化熱による温度低下を小さくする方法です。

    ①リターダシンナー(抑制剤/Retarder)
    各塗料メーカーからリターダシンナー(ノンブラッシング)と呼ばれる乾燥抑制剤が出されており、通常のシンナーに対して適量(10%~20%程度)を混合して使用します。
    リターダシンナー配合率_2
    ラッカー塗料、ウレタン塗料、油性塗料など、塗料別に専用のリターダシンナーを使用し、あまり多く入れすぎると乾燥不良になるので注意が必要です。

    ②遅乾型(夏用)シンナー
    揮発速度を遅くした遅乾型(夏用)シンナーを使用することにより、リターダシンナーを混合する手間が省けます。
    また、季節のコンディションに合わせて揮発速度が調整された各種シンナーが出ています。
    シンナーの種類_2
    画像引用:モノタロウ様
    弊社塗装部では主にこちらの方法でブラッシング防止に対応しています。
    気温が高くなるにつれてシンナーの揮発速度が上がりますので、梅雨入りの時期から夏場にかけては遅乾型(夏用)シンナーに切り替えます。
    逆に気温が低くなり極度に乾燥が遅くなる冬場には、揮発速度を高めた速乾型(冬用)シンナーを使用し乾燥を早めて作業性を高めています。
    春と秋の過ごしやすい季節には中間の揮発速度に調合された標準型を使用。
    季節により使い分けをすることが、作業効率を高めることに繋がります。

  • 対処法その3:エアドライヤーを導入する
    吹き付け塗装を行う際に用いる圧縮空気を生み出すエアコンプレッサーに取り込まれた空気は、圧縮により体積変化することや、機械内部で温度上昇した空気がエアタンクや配管で冷やされることで結露します。
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    湿度が高い日には生成される水分量が多くなり、場合によってはスプレーガンの先から塗料と共に放出されてブラッシングの原因となってしまいます。
    そのような空気中の余分な水分を除去する為の機械がエアドライヤーです。
    弊社塗装部では、エアドライヤー付きのコンプレッサーを採用したり、配管の途中に水抜きフィルターを設置しています。
【ブラッシングが起きてしまった時の対処法】
塗装をし始めた時は晴れていて白化は全く起きてなかったが、途中から天気が急変、ゲリラ豪雨になり急激な湿度の上昇で白化が生じてしまった・・・というのは、木工塗装では無きにしも非ずなお話です。

そのような時、白化した塗装面が乾燥する前にリターダシンナーを使って多めに希釈した低粘度の塗料を吹き付けると、白化が取れて綺麗な肌合いに戻ることがあります。
乾燥の遅い溶剤で塗装を溶かし、一度塗膜内に閉じ込めてしまった水分を逃がしてあげる・・・といったイメージだと思います。

しかし厳密に言えば、一度白化してしまった塗膜は性能的には若干劣ってしまいます。
ごく軽度のブラッシングであればそれで対応出来る場合もあるかと思いますが、ひどいブラッシングの場合は直りませんので、白化した塗膜を拭き取り除去し、塗装をし直すことになります。

年に1、2回、特に夏場にはひどく蒸し暑い日があります。
確実にブラッシングが起きそうな日には出来るだけ塗装作業を避け、他の作業をするのが安全なのですが。

そのような日に塗装作業を行う場合は、始める前に天気の回復などの環境の改善が期待出来る場合は様子を見みる、ヒーターとリターダシンナーを併用する、厚塗りを避けるなど。
何はともあれ慎重に作業を進めることが大切です。


それでは今回はこの辺で。
最後までご覧頂きましてありがとうございました。
次回もお楽しみに。


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