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Part.5 からの続き~

長らくご紹介してきたボンネット塗り替えの作業風景ですが。
今回でようやく最終回となります。
ここまで続けてご覧頂いた貴方は、かなりの塗装マニアなのでしょう(笑)
お付き合い頂き、感謝を申し上げます。


前回でモックアップが完成し、お客様からデザインの承認も頂きましたね。
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こちらのモックアップをお手本に、本番のボンネットに漆塗りを行っていきました。
モックアップでは中古のボンネットを使用しましたが、本番に際しては新品のボンネットを取り寄せました。
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ボンネットは鉄製で、もちろん保護や美観のために塗装(焼き付け塗装)が施されていますが・・・
果たしてこの素地の上に「漆塗り」は出来るのでしょうか?

通常の漆であれば答えは「NO」です。
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画像引用:FEEL J
漆とは、漆の木に傷をつけた時に分泌される乳白色の樹液、またはそれを精製したものです。
漆は縄文時代から塗料や接着剤として使われていて、日本の生活と文化を支えてきました。

漆の樹液にはウルシオールという物質が含まれていて、このウルシオールが空気中の水分と酸素の働きで硬化して、光沢のある塗膜が形成されます。
漆の硬化には適度な温度と湿度が必要で、一般的には温度が20~30℃、湿度が70~85%程度で数時間~数日掛けて硬化させます。漆は低湿度下では硬化時間が長くなるか、硬化しないことが知られています。
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天然の塗料である漆。
同じく天然素材である竹や木材、和紙などには比較的容易に塗ることが出来ますが、金属やプラスチックなどの人工素材には馴染みにくく、塗るのが難しいのです。
また、漆塗りの塗膜は紫外線にめっぽう弱く、すぐに日光による変色や劣化を起こしてしまいます。

そう、屋外を走り回る車のボンネットに漆を塗るなんて“もってのほか”なのです。

しかしながら、お客様のご要望により、どうしても漆塗り(溜塗)を取り入れたかった。

その解決策として・・・今回は「ある特殊な漆」を採用しました。
それは現代のテクノロジーにより強化された漆です。

その特殊な漆とは・・・UV漆。
紫外線を照射し塗膜を硬化するUV素材と、天然素材である漆を配合したもので、漆の風合いの良さを引き継ぎながらも、車の塗装にも耐えうる耐久性や耐候性を得られるという。

そして・・・
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塗り上がりはこの様な感じになりました。
どうですか?綺麗でしょ~
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磨き上げられた鏡面の塗膜が美しい。
天井のLED灯がくっきりと映っていますね。
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写真左がモックアップ、右がUV漆で塗り上げた本番のボンネットです。
塗り分け方などのデザインはモックアップどおりですが、艶や色合いは変わりましたね。

モックアップでは一部(黒の部分)が艶消しですが、本番では艶有りに変更しました。
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↑モックアップ
↓本番
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本番も黒の部分は艶消しになる予定でしたが・・・
塗り分けをした際に発生する、各色の境目の段差が思いのほか気になりまして。
黒の艶消し、溜塗の沈んだ朱色、シルバーのライン、それぞれの境目の段差が出ないように試行錯誤したのですが解決せず(涙)
その段差を無くす(なだらかにする)ため、結局、ボンネット全体に艶有りのトップコート(透明の塗料)を施すことになりました。
うーん・・・伝わりましたか

溜塗の部分はモックアップより暗めに塗り上がりました。
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↑モックアップ
↓本番
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モックアップはウレタン塗装で漆塗り(溜塗)を再現したものですからね。
本番の方が漆本来の色合いだと思います。
Part.1でもご説明しましたが、本番の方は経年変化で表層の透き漆の黒っぽさが薄くなり、徐々に明るい色合いに変化するさまを楽しむ事が出来るでしょう。
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ウレタン塗装と漆塗り。
こうやって並べてみると、やっぱり“質感”が違います。
艶感の違いがあるものの、漆塗りの方が“ぽってり”と塗装が乗っていて、“しっとり”感があるというか。
モックアップと質感を比べるのは酷ですが・・・やはり高級感がありますね。

そして、無事に納品させて頂くことが出来ました。
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うーん、カッコイイ。
ホワイトのボディーカラーと漆塗りのボンネットがとてもマッチしています。
レースでもご使用されている車両で、各所チューンナップされており、元々スポーティーな雰囲気でしたが、更にグッとレーシーになりましたね。
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塗装スタジオ内のLED照明の下で見るのとはまた違います。
太陽光の下で見ると、深みのある色合いに。
溜塗の部分はほんのり下地が透けて、味わいのある雰囲気になっています。
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かなり大変な仕事ではありましたが・・・
お客様には大変ご満足頂けて本当に良かったです。
なかなか経験する事の出来ない仕事をさせて頂きました。
私共にご依頼頂きましてありがとうございました。


最後までお読み頂きありがとうございました。
それでは次回もお楽しみに


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