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塗装職人が巡る ミラノサローネ2026視察レポート
第4部・自由視察編・ミラノの街とFuori Saloneを巡る1日
~前回、塗装職人が巡る、ミラノサローネ2026視察レポート3 会場編Part2からの続き~
前回の第3部では、4月24日のミラノサローネ本会場2日目と、午後から訪れたFuori Saloneの様子をレポートしました。
今回の第4部では、その翌日 4月25日 の自由視察の様子をお届けします。
4月25日、26日の2日間は、ツアー参加者がそれぞれ自由に行動できる日程になっていました。
せっかくイタリア・ミラノまで来たと言うことで、この日はミラノ観光も兼ねながら、市内各所で開催されている Fuori Salone(フォーリサローネ)を巡ることにしました。
この日は、今回のツアーで知り合いになった方々5名と一緒に行動。
朝8時半ごろにホテルを出発し、最寄り駅の Porto di Mare(ポート・ディ・マーレ)駅から地下鉄に乗って、まずは Duomo(ドゥオーモ)駅へ向かいました。

自由視察の2日間は、この Duomo 駅周辺を起点に動くことが多く、ミラノの中心部を歩きながら、街そのものを味わうような時間になりました。
Duomo駅から、まずはミラノの街歩きへ
Duomo 駅を降りると、目の前にはミラノを代表する建築、ドゥオーモ大聖堂がそびえ立っています。

これから向かうのは、こちらDuomo前の広場から徒歩で約20分ほどの場所にある 安多化粧合板株式会社 さんの展示会場。
しかし、せっかくミラノの中心部を歩ける機会です。まっすぐ目的地へ向かうのではなく、途中の街並みや建物をじっくり見ながら歩くことにしました。
結果として、徒歩20分ほどの道のりを1時間以上かけて歩くことに。
それでもまったく退屈することはなく、むしろどこを見ても絵になるような街並みに、何度も足を止めてしまいました。

ミラノの街は、ただ古い建物が残っているというだけでなく、石造りの壁、重厚な扉、窓まわりの装飾、通りの幅、看板の出し方まで、街全体に美意識があるように感じました。
家具や内装を見る前に、まず街そのものが大きなデザインの教材のようでした。



ドゥオーモ横の美しいアーケード、ガッレリアへ
Duomo大聖堂のすぐ横には、ミラノを代表する歴史的なアーケード Galleria Vittorio Emanuele Ⅱ(ガッレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世)があります。


ガッレリアは、Duomo 広場とスカラ座方面を結ぶ壮麗なアーケードで、19世紀のミラノを象徴する建築のひとつです。設計はジュゼッペ・メンゴーニで、1865年に工事が始まり、ガラスと鉄を用いた大空間がつくられました。中央の八角形部分にはドームがかかり、長いアーケードが十字形に交差する構成になっています。


実際に中に入ると、天井の高さとガラス屋根の美しさに圧倒されます。
床のモザイク、壁面の装飾、店舗のサイン、アーケードの全体の見え方。
どこを切り取っても絵になるような空間です。

ここには、プラダの本店として知られる店舗もあります。プラダは1913年にミラノで創業したブランドで、創業当初の「 Fratelli Prada 」はこのガッレリア内に店を構えたことでも知られています。

そして、ガッレリアで有名なのが、床に描かれた 雄牛のモザイク画 です。

これはトリノの紋章を表す雄牛で、急所(大事な部分)の窪みにかかとを置き、右足を軸にくるりと時計回りに3回転すると幸運が訪れる、という言い伝えがあります。多くの観光客が順番を待って同じ動きをしていて、急所の部分がすり減っていました。
安多化粧合板株式会社さんの特設展示へ
街歩きを楽しみながら向かった先は、ミラノデザインウィーク期間中に特設展示を行っていた 安多化粧合板株式会社 さんの展示会場です。

安多化粧合板株式会社さんは、大阪府八尾市にある天然木化粧合板・突板を扱う会社です。
公式サイトでは、突板という薄くスライスされた木を用い、木目や色合いに宿る自然の痕跡を活かしながら、空間にふさわしい表情を仕立てていく姿勢が紹介されています。

今回のミラノデザインウィーク2026では、「 Symmetry / Asymmetry - Enlightenment for New Era -」というテーマで出展されていました。展示では、合理性や標準化、左右対称といった秩序だけでなく、自然が持つ揺らぎや小さな違いの美しさに目を向ける内容となっており、アート空間を演出する素材として「突板」という薄い一枚を扱っていました。

突板は、同じ樹種であっても一本ごとに木目が異なります。
同じものが二つとない木の表情を、どう選び、どう並べ、どう空間の中で見せるか。
これは家具塗装の仕事にもとても近い感覚があります。

塗装でも、木目を隠すのか、活かすのか、色を揃えるのか、あえて揺らぎ(ムラ感など)を残すのかで、仕上がりの印象は大きく変わります。
安多化粧合板株式会社さんの展示は、木という素材が持つ自然なリズムや不均一さを、改めて美しいものとして見つめ直すような内容でした。
展示会場の裏手にあった、見事な藤の木
安多化粧合板さんの展示会場で特に印象に残ったのが、会場の裏手にあるお庭です。

そのお庭には、見事な巨大な藤の木がありました。

聞くところによると、この場所はアパレル系のスーパーブランドなどが撮影場所に使うこともあるそうです。
確かに、庭に一歩入るとミラノの街中にいることを忘れてしまうような落ち着いた空気がありました。
自然の陰影や木漏れ日、建物との関係がとても心地よく、展示会場とはまた違う豊かな時間が流れていました。

この庭で、安多社長から展示に関するエピソードや、素材への考え方などを色々と伺うことができました。ツアー参加者一同でお話しを聞きながら過ごした時間は、とても楽しく、また印象に残るひとときでした。
世界的なデザインイベントの中で、日本の企業が木という素材の魅力を丁寧に発信している。
その場に立ち会えたことも、とても嬉しい経験でした。
ブレラ地区へ移動し、HENRYTIMIへ
安多化粧合板さんの展示を見学したあとは、ブレラ地区方面へ移動しました。
向かったのは、安多社長イチ押しと伺ったブランド HENRYTIMI(ヘンリー・ティミ)のショールームです。

HENRYTIMIは、ミラノを拠点とするアーティスト/職人 Henty Timi によるブランドです。
HENRYTIMIのミラノショールームは1898年に建てられた建物の中にあり、約400㎡の明かりを落した落ち着いた空間の中に、自然光を活かした展示が広がっていました。



実際に訪れてみると、そこは単なる家具ショールームというより、ひとつの独自の世界でした。
白を基調とした空間、そぎ落とされた形、石や木の固まりのような家具。
余計な装飾はほどんどないのに、強烈な存在感があります。

HENRYTIMI は、純粋な素材、厳格なライン、ミニマルで本質的な美しさを重視していました。
家具でありながら、アート作品や空間そのものに近い印象を持つブランドです。


さらにショールームには、チャウチャウ犬や白馬2頭の姿もあり、現実と演出の境界が少し曖昧になるような、独特の雰囲気に包まれていました。

家具を見ると言うより、ブランドの思想の中に入り込むような体験。
素材を極限までそぎ落とし、形を純化させた先にこれほど強い印象が残るのかと驚きました。
塗装職人の目線で見ると、こうしたミニマルな造形は、ごまかしが効きません。
面の精度、角の処理、素材そのものの質感、光の受け方。
余計な装飾がないからこそ、細部の緊張感がそのまま空間全体の印象につながっているように感じました。
ここから2人で別行動、ドゥオーモ大聖堂へ

HENRYTIMI の世界観にすっかり魅了されたあとは、私ともう1人の方の2人で別行動することにしました。
向かったのは、前日に予約しておいた Duomo大聖堂の内部見学ツアー です。
予約時間は13時半。少し時間があったので、Duomo大聖堂へ向かう途中で昼食を取ることにしました。
昼食はお洒落な通りのレストランで

Duomo大聖堂へ向かう途中、名前は分からないのですが、お洒落な歩行者天国の通りにあるレストランに入りました。


注文したのは、モッツァレラチーズのパスタとアイスコーヒー。
ところが、「アイスコーヒー」と頼んだつもりが、日本で想像するようなアイスコーヒーではなく、謎のクリームたっぷりのカフェモカのような飲み物が出てきました。
これはこれで美味しかったのですが、想像していたものとあまりにも違い、思わず笑ってしまいました。
パスタはと言うと・・・見た目で分かりますよね?
もちろんとても美味しかったです。
そしてさらに驚いたのが、お値段です。
パスタと飲み物で 38ユーロ。日本円にすると約7,000円ほどです。
どうやら、かなり良いお店に入ってしまったようです。
ミラノの中心部、それも Duomo周辺という立地を考えれば仕方がないのかもしれませんが、日本の感覚からすると、やはりかなり高級ランチ。
旅先ならではの小さな失敗というか、これもまた良い思い出になりました。
ミラノを象徴する建築、Duomo大聖堂へ
昼食のあとは、いよいよ Duomo di Milano(ミラノ大聖堂)の見学ツアーへ向かいました。

Duomo大聖堂は、ミラノを象徴するゴシック建築です。公式サイトによると、建設はおそらく1386年に始まり、1387年には建設を進めるための組織 Veneranda Fabbrica del Duomo が設立されました。
当時のミラノ公ジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティは、従来のロンバルディア地方のレンガではなく、カンドリア産の大理石を用いることを決め、ヨーロッパ各地から建築家、技術者、彫刻家、石工が集まる大工事になりました。

この大聖堂は、完成までに非常に長い年月を要したことでも知られています。建設は14世紀に始まり、ファサードや扉などの完成は20世紀にまで及び、まさに何世代にも渡ってつくられ続けてきた建築です。
まずは屋上へ。石の森の中を歩くような体験

見学ツアーでは、まず大聖堂の上へ登りました。
途中まではエレベーターで上がり、そこから先はひたすら階段を上がっていきます。




屋上に出ると、そこには尖塔や彫刻が林立する、まるで石の森のような世界が広がっていました。
下から見上げていた時には分からなかった彫刻の細かさ、石材の重なり、建築の構造が、間近に迫ってきます。

石でできた建築でありながら、細部はレースのように繊細。
しかし同時に、建物全体からは圧倒的な重量感が伝わってきます。
日本の木造建築や、普段扱っている木の家具とはまったく違うスケール感。
「石でここまで巨大な建築をつくる」ということの迫力に、ただただ圧倒されました。
内部見学。巨大な石造建築の重量感に圧倒される
屋上見学のあとは、階段を下りて大聖堂内部へ。
内部に入ると、まず感じるのはその圧倒的なスケールです。
高い天井、太い柱、薄暗い空間に差し込むステンドグラスの光。
今まで感じた事のない、石造の巨大建築ならではの重量感がありました。

大聖堂の中に立っていると、自分がとても小さな存在に感じられます。
人の手でつくられた建築でありながら、人の力を超えたもののようにも感じられる。
何百年という時間をかけて、これだけの建物をつくり続けた人々の信仰心や技術、執念のようなものが、空間全体から伝わってくるようでした。


家具塗装の仕事は、人が日常で使うものを美しく整える仕事です。
スケール感はまったく違いますが、「素材を扱い、形にし、長く残す」という意味では、ものづくりの根本にあるものを感じさせてくれる場所でした。
Moscova駅近くのギャラリーで、DAIKANさんの展示へ
Duomo大聖堂の見学を終えたあとは、同行させていただいた方のお知り合いが出展されているということで、地下鉄 Moscova(モスコーヴァ)駅近くのギャラリーへ向かいました。
そこで見学したのが、大阪のサインメーカー株式会社ダイカン さんの展示です。

ダイカンさんは、1964年創業の大阪を拠点とするサインメーカーで、ラグジュアリーブランドや商業施設などの空間づくりに関わってきた企業です。2026年のミラノデザインウィークには初出展し、新素材 FLUX METAL を用いたテーブル「FLUX TABLE」のプロトタイプを発表しました。
展示されていたのは、鏡面研磨された金属の天板が、まるで液体のように波打って見える不思議なテーブル。
金属なのに、どこか柔らかく、ぐねぐねと動いているように見える表情がとても不思議でした。
この「FLUX METAL」は、金属でありながら流動して見える表現で、最終工程には熟練職人によるミクロン単位の手仕事が必要になるとのことです。機械加工だけでは均一な仕上がりが得られないため、デジタル加工とクラフトマンシップが組み合わさって成立する素材表現だそうです。
再びグループと合流し、Snaideroのショールームへ
DAIKANさんの展示を見学したあとは、朝ホテルを一緒に出たグループと再び合流しました。
次に向かったのは、ブレラ地区にあるキッチンメーカー Snaidero(スナイデロ)のショールームです。
Snaidero は、75年以上の歴史を持つイタリアのキッチンブランドです。Snaidero Milano の公式ショールーム紹介では、上質なデザインキッチンを求める人のための拠点として、Via San Marco 1にショールームを構え、2フロアにわたって各モデルの特徴や素材、仕上げを確認できる空間になっていると説明されています。

ブランドとしては、Made in Italy のデザイン、クラフトマンシップ、革新性を大切にしながら、機能性や人間工学にも配慮したキッチンづくりを特徴としています。

実際に見てみると、キッチンでありながら、家具としての完成度がとても高いと感じました。
扉の面材、天板、収納内部、ハンドルの有無、照明の使い方。
調理をするための設備でありながら、空間全体を美しく見せる家具のような存在です。

キッチンは、熱や水、油、手垢など、家具以上の過酷な環境で使われる場所です。
Snaidero のショールームでは、機能性とデザイン性をどう両立させるか、そのヒントを見ることができました。

随所に塗装仕上げが採用されているキッチン。こちらは塗装でムラ感を表現したサーフェース。
塗装職人としては、その技術力の高さを感じました。
最後はRHのラグジュアリーなショールームへ
この日の最後に訪れたのは、アメリカのラグジュアリー家具ブランド RH のショールームです。

RH は、もともと、Restoration Hardware として知られていたアメリカの高級ホームファニシングブランドです。家具、照明、テキスタイル、バス関係、装飾品、アウトドア家具など、住空間全体を提案するブランドとして展開しています。

ミラノの RH は、RH Milan, The Gallery on Corso Venezia として、Corso Venezia沿いの19世紀のネオ・ルネッサンス様式の建物をリノベーションした大規模なショールームです。紹介記事によると、建物は1880年に建てられたパラッツォで、Galleria Vittorio Emanuele Ⅱ(さきほど登場したガッレリア)にも関わった Giorgio Pellini によるもの。地下2階、地上5階の7レベル、約7,000㎡にわたる空間に、家具、アート、アンティーク、レストラン、バーなどを組み合わせた没入型のギャラリーとして紹介されています。


実際に訪れてみると、とにかく建物が立派でした。
クラシカルで重厚な建築の中に、RH らしいラグジュアリーな家具がゆったりと配置されていて、まるでホテルか邸宅の中を歩いているような感覚になります。


地下から上階まである大きなショールームで、フロアごとに異なる世界観が展開されていました。
大きなソファ、重厚なテーブル、クラシカルな照明、石材や金属を使った装飾。
アメリカのブランドでありながら、ミラノの歴史的建築の中に入ることで、どこかヨーロッパ的な重厚さも感じられました。






塗装職人としては、クラシカルなデザインの家具や建築の中で、木部の仕上げや艶の使い方、金属や石との組み合わせがとても気になりました。
新しく見せるのではなく、時間を重ねたような深みをどうつくるか。
RH の空間はそうした“雰囲気づくり”の参考になる部分が多くありました。
クタクタになるまで歩いた自由視察の一日
この日は、朝8時半にホテルを出てから、Duomo周辺、安多化粧合板さんの展示、HENRYTIMI、Duomo大聖堂、DAIKANさんの展示、Snaidero、RH と、本当に盛りだくさんの一日でした。

ミラノサローネ本会場とはまた違い、Fuori Salone では、ミラノの街そのものを歩きながら展示を巡る楽しさがあります。
歴史ある建物、ブランドのショールーム、隠れた中庭、ギャラリー、レストラン、街角の風景。
それらが全部つながって、ミラノデザインウィークという大きな体験になっているのだと感じました。

一方で、この日はとにかくよく歩き回りました。
最後には足も体もクタクタになり、ホテルに戻った頃には、夕食に出掛ける元気も残っていませんでした。
結局この日の夜は、日本から持ってきたカップラーメンを食べて、早めに休むことに。
本場イタリアンももちろん美味しいですが、疲れ切った体に食べ慣れた日本の味がしみるというのも、海外旅行ならではの実感でした。
・
・
気付いたら・・・またもや長くなってしまいましたね。
今回はこの辺にしておきましょうか。
~塗装職人が巡る、ミラノサローネ2026視察レポート5 街中編Part2 につづく~
次回は、ミラノ滞在最終日となる 4月26日の自由視察 の様子をレポートします。
最終日も Fuori Salone を中心に、ミラノ市内のショールームや展示を巡りながら、今回の視察旅行を締めくくる一日となりました。
・・・と、その前に、朝からちょっとしたトラブルが発生。
最終日は、思いがけないハプニングから始まることになります。
果たして無事に予定通り視察を進めることができたのか!?
次回も引き続き、塗装職人の目線で見たミラノのデザインと街の魅力をお届けしたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
次回もお楽しみに!!
●ニシザキ工芸株式会社塗装部HP
https://tosou.nishizaki.co.jp/
●特注家具・ニシザキ工芸株式会社HP
https://www.nishizaki.co.jp/
塗装職人が巡る ミラノサローネ2026視察レポート
第4部・自由視察編・ミラノの街とFuori Saloneを巡る1日

~前回、塗装職人が巡る、ミラノサローネ2026視察レポート3 会場編Part2からの続き~
前回の第3部では、4月24日のミラノサローネ本会場2日目と、午後から訪れたFuori Saloneの様子をレポートしました。
今回の第4部では、その翌日 4月25日 の自由視察の様子をお届けします。
4月25日、26日の2日間は、ツアー参加者がそれぞれ自由に行動できる日程になっていました。
せっかくイタリア・ミラノまで来たと言うことで、この日はミラノ観光も兼ねながら、市内各所で開催されている Fuori Salone(フォーリサローネ)を巡ることにしました。

この日は、今回のツアーで知り合いになった方々5名と一緒に行動。
朝8時半ごろにホテルを出発し、最寄り駅の Porto di Mare(ポート・ディ・マーレ)駅から地下鉄に乗って、まずは Duomo(ドゥオーモ)駅へ向かいました。

自由視察の2日間は、この Duomo 駅周辺を起点に動くことが多く、ミラノの中心部を歩きながら、街そのものを味わうような時間になりました。
Duomo駅から、まずはミラノの街歩きへ
Duomo 駅を降りると、目の前にはミラノを代表する建築、ドゥオーモ大聖堂がそびえ立っています。

これから向かうのは、こちらDuomo前の広場から徒歩で約20分ほどの場所にある 安多化粧合板株式会社 さんの展示会場。
しかし、せっかくミラノの中心部を歩ける機会です。まっすぐ目的地へ向かうのではなく、途中の街並みや建物をじっくり見ながら歩くことにしました。
結果として、徒歩20分ほどの道のりを1時間以上かけて歩くことに。
それでもまったく退屈することはなく、むしろどこを見ても絵になるような街並みに、何度も足を止めてしまいました。

ミラノの街は、ただ古い建物が残っているというだけでなく、石造りの壁、重厚な扉、窓まわりの装飾、通りの幅、看板の出し方まで、街全体に美意識があるように感じました。
家具や内装を見る前に、まず街そのものが大きなデザインの教材のようでした。



ドゥオーモ横の美しいアーケード、ガッレリアへ
Duomo大聖堂のすぐ横には、ミラノを代表する歴史的なアーケード Galleria Vittorio Emanuele Ⅱ(ガッレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世)があります。


ガッレリアは、Duomo 広場とスカラ座方面を結ぶ壮麗なアーケードで、19世紀のミラノを象徴する建築のひとつです。設計はジュゼッペ・メンゴーニで、1865年に工事が始まり、ガラスと鉄を用いた大空間がつくられました。中央の八角形部分にはドームがかかり、長いアーケードが十字形に交差する構成になっています。


実際に中に入ると、天井の高さとガラス屋根の美しさに圧倒されます。
床のモザイク、壁面の装飾、店舗のサイン、アーケードの全体の見え方。
どこを切り取っても絵になるような空間です。

ここには、プラダの本店として知られる店舗もあります。プラダは1913年にミラノで創業したブランドで、創業当初の「 Fratelli Prada 」はこのガッレリア内に店を構えたことでも知られています。

そして、ガッレリアで有名なのが、床に描かれた 雄牛のモザイク画 です。

これはトリノの紋章を表す雄牛で、急所(大事な部分)の窪みにかかとを置き、右足を軸にくるりと時計回りに3回転すると幸運が訪れる、という言い伝えがあります。多くの観光客が順番を待って同じ動きをしていて、急所の部分がすり減っていました。
安多化粧合板株式会社さんの特設展示へ
街歩きを楽しみながら向かった先は、ミラノデザインウィーク期間中に特設展示を行っていた 安多化粧合板株式会社 さんの展示会場です。

安多化粧合板株式会社さんは、大阪府八尾市にある天然木化粧合板・突板を扱う会社です。
公式サイトでは、突板という薄くスライスされた木を用い、木目や色合いに宿る自然の痕跡を活かしながら、空間にふさわしい表情を仕立てていく姿勢が紹介されています。

今回のミラノデザインウィーク2026では、「 Symmetry / Asymmetry - Enlightenment for New Era -」というテーマで出展されていました。展示では、合理性や標準化、左右対称といった秩序だけでなく、自然が持つ揺らぎや小さな違いの美しさに目を向ける内容となっており、アート空間を演出する素材として「突板」という薄い一枚を扱っていました。

突板は、同じ樹種であっても一本ごとに木目が異なります。
同じものが二つとない木の表情を、どう選び、どう並べ、どう空間の中で見せるか。
これは家具塗装の仕事にもとても近い感覚があります。

塗装でも、木目を隠すのか、活かすのか、色を揃えるのか、あえて揺らぎ(ムラ感など)を残すのかで、仕上がりの印象は大きく変わります。
安多化粧合板株式会社さんの展示は、木という素材が持つ自然なリズムや不均一さを、改めて美しいものとして見つめ直すような内容でした。
展示会場の裏手にあった、見事な藤の木
安多化粧合板さんの展示会場で特に印象に残ったのが、会場の裏手にあるお庭です。

そのお庭には、見事な巨大な藤の木がありました。

聞くところによると、この場所はアパレル系のスーパーブランドなどが撮影場所に使うこともあるそうです。
確かに、庭に一歩入るとミラノの街中にいることを忘れてしまうような落ち着いた空気がありました。
自然の陰影や木漏れ日、建物との関係がとても心地よく、展示会場とはまた違う豊かな時間が流れていました。

この庭で、安多社長から展示に関するエピソードや、素材への考え方などを色々と伺うことができました。ツアー参加者一同でお話しを聞きながら過ごした時間は、とても楽しく、また印象に残るひとときでした。
世界的なデザインイベントの中で、日本の企業が木という素材の魅力を丁寧に発信している。
その場に立ち会えたことも、とても嬉しい経験でした。
ブレラ地区へ移動し、HENRYTIMIへ
安多化粧合板さんの展示を見学したあとは、ブレラ地区方面へ移動しました。
向かったのは、安多社長イチ押しと伺ったブランド HENRYTIMI(ヘンリー・ティミ)のショールームです。

HENRYTIMIは、ミラノを拠点とするアーティスト/職人 Henty Timi によるブランドです。
HENRYTIMIのミラノショールームは1898年に建てられた建物の中にあり、約400㎡の明かりを落した落ち着いた空間の中に、自然光を活かした展示が広がっていました。



実際に訪れてみると、そこは単なる家具ショールームというより、ひとつの独自の世界でした。
白を基調とした空間、そぎ落とされた形、石や木の固まりのような家具。
余計な装飾はほどんどないのに、強烈な存在感があります。

HENRYTIMI は、純粋な素材、厳格なライン、ミニマルで本質的な美しさを重視していました。
家具でありながら、アート作品や空間そのものに近い印象を持つブランドです。


さらにショールームには、チャウチャウ犬や白馬2頭の姿もあり、現実と演出の境界が少し曖昧になるような、独特の雰囲気に包まれていました。

家具を見ると言うより、ブランドの思想の中に入り込むような体験。
素材を極限までそぎ落とし、形を純化させた先にこれほど強い印象が残るのかと驚きました。
塗装職人の目線で見ると、こうしたミニマルな造形は、ごまかしが効きません。
面の精度、角の処理、素材そのものの質感、光の受け方。
余計な装飾がないからこそ、細部の緊張感がそのまま空間全体の印象につながっているように感じました。
ここから2人で別行動、ドゥオーモ大聖堂へ

HENRYTIMI の世界観にすっかり魅了されたあとは、私ともう1人の方の2人で別行動することにしました。
向かったのは、前日に予約しておいた Duomo大聖堂の内部見学ツアー です。
予約時間は13時半。少し時間があったので、Duomo大聖堂へ向かう途中で昼食を取ることにしました。
昼食はお洒落な通りのレストランで

Duomo大聖堂へ向かう途中、名前は分からないのですが、お洒落な歩行者天国の通りにあるレストランに入りました。


注文したのは、モッツァレラチーズのパスタとアイスコーヒー。
ところが、「アイスコーヒー」と頼んだつもりが、日本で想像するようなアイスコーヒーではなく、謎のクリームたっぷりのカフェモカのような飲み物が出てきました。
これはこれで美味しかったのですが、想像していたものとあまりにも違い、思わず笑ってしまいました。
パスタはと言うと・・・見た目で分かりますよね?
もちろんとても美味しかったです。
そしてさらに驚いたのが、お値段です。
パスタと飲み物で 38ユーロ。日本円にすると約7,000円ほどです。
どうやら、かなり良いお店に入ってしまったようです。
ミラノの中心部、それも Duomo周辺という立地を考えれば仕方がないのかもしれませんが、日本の感覚からすると、やはりかなり高級ランチ。
旅先ならではの小さな失敗というか、これもまた良い思い出になりました。
ミラノを象徴する建築、Duomo大聖堂へ
昼食のあとは、いよいよ Duomo di Milano(ミラノ大聖堂)の見学ツアーへ向かいました。

Duomo大聖堂は、ミラノを象徴するゴシック建築です。公式サイトによると、建設はおそらく1386年に始まり、1387年には建設を進めるための組織 Veneranda Fabbrica del Duomo が設立されました。
当時のミラノ公ジャン・ガレアッツォ・ヴィスコンティは、従来のロンバルディア地方のレンガではなく、カンドリア産の大理石を用いることを決め、ヨーロッパ各地から建築家、技術者、彫刻家、石工が集まる大工事になりました。

この大聖堂は、完成までに非常に長い年月を要したことでも知られています。建設は14世紀に始まり、ファサードや扉などの完成は20世紀にまで及び、まさに何世代にも渡ってつくられ続けてきた建築です。
まずは屋上へ。石の森の中を歩くような体験

見学ツアーでは、まず大聖堂の上へ登りました。
途中まではエレベーターで上がり、そこから先はひたすら階段を上がっていきます。




屋上に出ると、そこには尖塔や彫刻が林立する、まるで石の森のような世界が広がっていました。
下から見上げていた時には分からなかった彫刻の細かさ、石材の重なり、建築の構造が、間近に迫ってきます。

石でできた建築でありながら、細部はレースのように繊細。
しかし同時に、建物全体からは圧倒的な重量感が伝わってきます。
日本の木造建築や、普段扱っている木の家具とはまったく違うスケール感。
「石でここまで巨大な建築をつくる」ということの迫力に、ただただ圧倒されました。
内部見学。巨大な石造建築の重量感に圧倒される
屋上見学のあとは、階段を下りて大聖堂内部へ。

内部に入ると、まず感じるのはその圧倒的なスケールです。
高い天井、太い柱、薄暗い空間に差し込むステンドグラスの光。
今まで感じた事のない、石造の巨大建築ならではの重量感がありました。

大聖堂の中に立っていると、自分がとても小さな存在に感じられます。
人の手でつくられた建築でありながら、人の力を超えたもののようにも感じられる。
何百年という時間をかけて、これだけの建物をつくり続けた人々の信仰心や技術、執念のようなものが、空間全体から伝わってくるようでした。


家具塗装の仕事は、人が日常で使うものを美しく整える仕事です。
スケール感はまったく違いますが、「素材を扱い、形にし、長く残す」という意味では、ものづくりの根本にあるものを感じさせてくれる場所でした。
Moscova駅近くのギャラリーで、DAIKANさんの展示へ
Duomo大聖堂の見学を終えたあとは、同行させていただいた方のお知り合いが出展されているということで、地下鉄 Moscova(モスコーヴァ)駅近くのギャラリーへ向かいました。

ダイカンさんは、1964年創業の大阪を拠点とするサインメーカーで、ラグジュアリーブランドや商業施設などの空間づくりに関わってきた企業です。2026年のミラノデザインウィークには初出展し、新素材 FLUX METAL を用いたテーブル「FLUX TABLE」のプロトタイプを発表しました。
展示されていたのは、鏡面研磨された金属の天板が、まるで液体のように波打って見える不思議なテーブル。
金属なのに、どこか柔らかく、ぐねぐねと動いているように見える表情がとても不思議でした。
この「FLUX METAL」は、金属でありながら流動して見える表現で、最終工程には熟練職人によるミクロン単位の手仕事が必要になるとのことです。機械加工だけでは均一な仕上がりが得られないため、デジタル加工とクラフトマンシップが組み合わさって成立する素材表現だそうです。
再びグループと合流し、Snaideroのショールームへ
DAIKANさんの展示を見学したあとは、朝ホテルを一緒に出たグループと再び合流しました。
次に向かったのは、ブレラ地区にあるキッチンメーカー Snaidero(スナイデロ)のショールームです。

Snaidero は、75年以上の歴史を持つイタリアのキッチンブランドです。Snaidero Milano の公式ショールーム紹介では、上質なデザインキッチンを求める人のための拠点として、Via San Marco 1にショールームを構え、2フロアにわたって各モデルの特徴や素材、仕上げを確認できる空間になっていると説明されています。

ブランドとしては、Made in Italy のデザイン、クラフトマンシップ、革新性を大切にしながら、機能性や人間工学にも配慮したキッチンづくりを特徴としています。

実際に見てみると、キッチンでありながら、家具としての完成度がとても高いと感じました。
扉の面材、天板、収納内部、ハンドルの有無、照明の使い方。
調理をするための設備でありながら、空間全体を美しく見せる家具のような存在です。

キッチンは、熱や水、油、手垢など、家具以上の過酷な環境で使われる場所です。
Snaidero のショールームでは、機能性とデザイン性をどう両立させるか、そのヒントを見ることができました。

随所に塗装仕上げが採用されているキッチン。こちらは塗装でムラ感を表現したサーフェース。
塗装職人としては、その技術力の高さを感じました。
最後はRHのラグジュアリーなショールームへ
この日の最後に訪れたのは、アメリカのラグジュアリー家具ブランド RH のショールームです。


RH は、もともと、Restoration Hardware として知られていたアメリカの高級ホームファニシングブランドです。家具、照明、テキスタイル、バス関係、装飾品、アウトドア家具など、住空間全体を提案するブランドとして展開しています。

ミラノの RH は、RH Milan, The Gallery on Corso Venezia として、Corso Venezia沿いの19世紀のネオ・ルネッサンス様式の建物をリノベーションした大規模なショールームです。紹介記事によると、建物は1880年に建てられたパラッツォで、Galleria Vittorio Emanuele Ⅱ(さきほど登場したガッレリア)にも関わった Giorgio Pellini によるもの。地下2階、地上5階の7レベル、約7,000㎡にわたる空間に、家具、アート、アンティーク、レストラン、バーなどを組み合わせた没入型のギャラリーとして紹介されています。


実際に訪れてみると、とにかく建物が立派でした。
クラシカルで重厚な建築の中に、RH らしいラグジュアリーな家具がゆったりと配置されていて、まるでホテルか邸宅の中を歩いているような感覚になります。


地下から上階まである大きなショールームで、フロアごとに異なる世界観が展開されていました。
大きなソファ、重厚なテーブル、クラシカルな照明、石材や金属を使った装飾。
アメリカのブランドでありながら、ミラノの歴史的建築の中に入ることで、どこかヨーロッパ的な重厚さも感じられました。






塗装職人としては、クラシカルなデザインの家具や建築の中で、木部の仕上げや艶の使い方、金属や石との組み合わせがとても気になりました。
新しく見せるのではなく、時間を重ねたような深みをどうつくるか。
RH の空間はそうした“雰囲気づくり”の参考になる部分が多くありました。
クタクタになるまで歩いた自由視察の一日
この日は、朝8時半にホテルを出てから、Duomo周辺、安多化粧合板さんの展示、HENRYTIMI、Duomo大聖堂、DAIKANさんの展示、Snaidero、RH と、本当に盛りだくさんの一日でした。

ミラノサローネ本会場とはまた違い、Fuori Salone では、ミラノの街そのものを歩きながら展示を巡る楽しさがあります。
歴史ある建物、ブランドのショールーム、隠れた中庭、ギャラリー、レストラン、街角の風景。
それらが全部つながって、ミラノデザインウィークという大きな体験になっているのだと感じました。

一方で、この日はとにかくよく歩き回りました。
最後には足も体もクタクタになり、ホテルに戻った頃には、夕食に出掛ける元気も残っていませんでした。
結局この日の夜は、日本から持ってきたカップラーメンを食べて、早めに休むことに。
本場イタリアンももちろん美味しいですが、疲れ切った体に食べ慣れた日本の味がしみるというのも、海外旅行ならではの実感でした。
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気付いたら・・・またもや長くなってしまいましたね。
今回はこの辺にしておきましょうか。
~塗装職人が巡る、ミラノサローネ2026視察レポート5 街中編Part2 につづく~
次回は、ミラノ滞在最終日となる 4月26日の自由視察 の様子をレポートします。
最終日も Fuori Salone を中心に、ミラノ市内のショールームや展示を巡りながら、今回の視察旅行を締めくくる一日となりました。
・・・と、その前に、朝からちょっとしたトラブルが発生。
最終日は、思いがけないハプニングから始まることになります。
果たして無事に予定通り視察を進めることができたのか!?
次回も引き続き、塗装職人の目線で見たミラノのデザインと街の魅力をお届けしたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
次回もお楽しみに!!
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