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木を知り、色を学ぶ2日間――ICS出張家具塗装セミナー2026

去る6月29日(月)と7月1日(水)の2日間、東京都目黒区にある専門学校「ICSカレッジオブアーツ」さんにて、出張家具塗装セミナーを開催しました。
このセミナーは、ニシザキ工芸株式会社塗装部にとって、すっかり毎年恒例の行事となっています。
例年は春頃に開催していますが、今回は諸事情により少し時期がずれ、梅雨真っ只中の6月末から7月始めにかけての開催となりました。

今回も受講して頂いたのは、インテリアマイスター科2年生の皆さんです。
家具製作や内装施工をはじめ、インテリアを形にするための幅広い技術を学んでいる学生さんたち。
私たちは毎年、この2日間を通して家具塗装の基礎知識と実技をお伝えしています。
・・・とはいえ、塗装は単に「好きな色を塗る」だけの仕事ではありません。
木の種類や特徴を見極め、完成形を想像し、必要な工程を組み立てていく。
今回のセミナーでは、そんな「塗る前に見ること、考えること」の大切さを、学生さんたちに体験していただきました。
同じ塗料でも、木が違えば仕上がりも変わる

初日は、木材塗装についての講義から始まりました。
今回も、木材塗装研究会の矢島浩之先生とともに講師を務めさせていただきました。

矢島先生は、長年にわたり木工塗装に携わってきた熟練の技術者であると同時に、塗料を科学的な視点から読み解くスペシャリストです。
塗装の目的や塗料の構成、木材と種類、木目の特徴、塗料の歴史など、幅広い内容を分かりやすく解説していただきました。

例えば、木材には大きく分けて、導管が年輪に沿って並ぶ「環孔材(かんこうざい)」と、小さな導管が全体に散らばる「散孔材(さんこうざい)」があります。

タモやオークなどの環孔材は、導管に色が入りやすく、着色によって力強い木目を表現できます。

一方、シナやメープルなどの散孔材は、塗料の吸い込みによって色ムラが生じやすいため、着色方法に工夫が必要です。
同じ色の塗料を使ったとしても、木材が違えば、まったく同じ仕上がりにはなりません。
そこが木工塗装の難しさであり、面白さでもあります。
大切なのは、いきなり塗り始めるのではなく、まず目の前の木をよく観察すること。
木目は強いのか、穏やかなのか。
色を吸い込みやすい部分はどこか。
木そのものの色を活かすのか、それとも全体を均一に整えるのか。
塗装の仕事は、木と相談することから始まります。
木工塗装は「色のレイヤー」を重ねる仕事

木工塗装の色は、一度の着色だけで決まるとは限りません。
木材が本来持っている色。
木地に直接染みこませる色。
塗膜の中に重ねる色。
さらに、部分的な色の差を補正するための色。
それらを何層にも重ねながら、少しずつ目標とする色へ近づけていきます。
今回の講義では、このような着色の考え方を「色のレイヤー」として説明しました。

家具は、同じ材種を使っていても、部材ごとに色の濃さや赤味が異なることがあります。
赤味が足りなければ赤系の色を薄く重ね、赤味が強すぎれば補色となる緑系をわずかに加える。
一度で正解を出そうとするのではなく、今どの色が不足しているのかを見極め、一層ずつ調整していくのです。
こうした「カラーイング」と呼ばれる技術は、木工塗装を特徴づける重要な技法のひとつです。

色を合わせるために必要なのは、単なる勘やセンスだけではありません。
見本と塗装面を見比べ、違いを分析し、次に加える色を考える。
観察と判断の積み重ねが、美しい仕上がりにつながります。
刷毛塗りにも基本の「型」があります
着色や下塗りには、刷毛塗りに挑戦してもらいました。

刷毛塗りには、「塗料を置く」→「全体に配る」→「均一にならし、刷毛目を整える」という基本的な流れがあります。
一見すると簡単そうに見えますが、実際にやってみると、塗料の量や刷毛を動かす速度、力の入れ方によって仕上がりが大きく変わります。

塗料が少なければかすれてしまう。
多すぎれば端や角に溜まってしまう。
途中で何度も刷毛を返せば、乾き始めた塗料を引っ張り、かえって刷毛目が乱れてしまいます。
最後は木目の方向に沿って、なるべく長く一筆で通す。

言葉で説明を聞くだけでなく、自分の手を動かすことで初めて分かる感覚があります。

学生さんたちは講師の動きをよく観察しながら、真剣な表情で刷毛を動かしていました。
研磨は「削る」ためだけではありません

塗装工程の途中では、何度も研磨を行います。
研磨と言うと、表面をきれいに削る作業を思われがちですが、それだけが目的ではありません。
塗膜表面に細かな傷を付け、次に塗る塗料がしっかりと密着するようにする。
これを「足付け」と呼びます。
研磨が不足していれば、塗膜が剥がれる原因となります。
一方、力を入れすぎれば、せっかく塗った塗膜を削り落してしまいます。
特に家具の角や端は塗膜が薄く、下地が出やすい部分です。
ペーパーから出る研磨粉の色を確認しながら、削りすぎていないか判断する。
サンダーで研磨した後も、最後は木目に沿って手で整える。
派手な作業ではありませんが、最終的な表面の美しさや耐久性を支える、とても重要な工程です。

家具塗装の仕事には完成するとみえなくなってしまう工程がたくさんあります。
けれども、見えない部分をどれだけ丁寧に積み重ねたかは、完成した表面にしっかりと表れるのです。
スプレーガンでは、距離・速度・角度を一定に
続いて、エアスプレーガンを使った塗装に挑戦しました。

スプレー塗装では、塗料の吐出量、空気量、吹き付ける幅(パターン)を調整し、ガンと塗装面との距離を一定に保ちながら動かします。
また、家具は平らな板だけでできているわけではありません。
脚や桟、内側、裏側など、さまざまな形状の部材が組合わされています。

どこから塗り始め、どの方向からガンを当て、最後にどの面を仕上げるか。
立体物をきれいに塗るためには、作業を始める前に塗装の順番を頭の中で組み立てる必要があります。
基本的には、見えにくい裏側や内側から塗り始めて、最後に天板などの目に付きやすい面を仕上げます。
つまり、スプレーガンを上手に扱うことと同じくらい、塗る順番を考えることが大切なのです。
最初は少し緊張した様子だった学生さんたちも、何度か練習するうちに、徐々にガンの動きが滑らかになっていきました。
見本と同じ色を、自分の手でつくる
今回も、塗料の調色実習を行いました。

白をベースに、赤、黄、青、黒などの塗料を少しずつ加え、指定された色見本に近づけていきます。
色はほんの一滴加えただけでも、大きく変化することがあります。
特に青や黒などの強い色は、入れすぎると元に戻すのが難しくなります。
そのため、一気に色を入れるのではなく、ごく少量ずつ加え、よく混ぜて確認します。

試し塗りをした塗料は、乾かしてから見本と比較します。
今回使用した水性塗料を含め、塗料は全般的に濡れている時と乾いた後で色の見え方が変わるからです。
さらに、色は照明によっても違って見えます。
室内では合っているように見えても、自然光の下へもっていくと赤く見えたり、青く見えたりすることがあります。
調色は、焦らずに仮説と検証を繰り返す作業です。

同じ色見本を目指していても、完成した色には一人ひとり微妙な違いが表れました。
その違いもまた、調色の難しさと面白さを物語っています。
古びた表情をつくる、エイジング塗装に挑戦
2日目には、エイジング塗装の実習も行いました。
エイジング塗装とは、新しい木材に、長年使い込まれたような風合いや味わいを与える塗装技法です。

まずは、金づちやビス、鎖やワイヤーブラシなど、様々な工具を使い、木材にあえて傷や打痕を付けていきます。
一見すると「傷をつけてはいけない」と思ってしまいますが、エイジング塗装では、その傷一つひとつが作品の表情になります。

続いて木地着色を行うと、傷の奥や木目に色が入り込み、使い込まれたような雰囲気が少しずつ現れてきます。
さらに最後は、スプレーガンを使ったガンシェーディングを施しました。
スプレーガンを使ってカラークリヤー(着色剤をまぜたクリヤー塗料)を吹き付けます。

縁や角を少し濃く、中央を明るく仕上げることで、立体感や奥行き感が生まれます。
新品だった木材が、まるで何十年もの時を経てきた家具のような表情へと変化していく様子に、学生さんたちからも驚きの声が上がっていました。
エイジング塗装には決まった正解はありません。
「どんな年月を経た家具に見せたいのか」
そのイメージを思い描きながら、傷の付け方や着色、陰影の付け方を工夫していきます。
傷を隠すのではなく、あえて魅力として活かす。
そんな発想も、家具塗装ならではの面白さの一つです。
「塗っていないように見せる」という塗装
近年の家具では、木そのものの質感を残した、ナチュラルな仕上がりが好まれています。
しかし、木に透明な塗料を塗ると、水に濡れた時のように色が濃くなる「濡れ色」が生じます。
そこで、塗料にごく僅かな白を加え、濡れ色を打ち消していきます。

写真左の見本板が無着色で塗装した「クリヤー仕上げ」、右の見本板がごく僅かな白を加えた「白木色仕上げ」です。
白が少なすぎれば木の色が濃くなり、多すぎれば木目が白く隠れてしまう。
木の表情を残しながら、塗っていないように見せる。
実はこれも、高度な調整を必要とする塗装技術なのですが、学生さんたちは器用にこなしていました。
正解は、ひとつとは限らない
こうして、研磨、着色、下塗り、中塗り、カラーイング、特殊仕上げ、上塗りと、たくさんの工程を重ねていきました。

学生さんたちの前には、それぞれ異なる表情を持った塗装サンプルが並びました。
木目を力強く見せたもの。
白木のような自然な色合いに仕上げたもの。
古びた深みを表現したもの。
見本の色へ丁寧に近づけた塗りつぶし仕上げ。
同じ材料や塗料を使っても、作業する人の判断や手の動かし方によって、仕上がりには少しずつ違いが生まれます。
もちろん、仕事として塗装を行う場合には、指定された色や品質へ正確に合せることが求められます。
しかし、その正解へ至る方法は必ずしもひとつではありません。
木の状態を見て、塗料の性質を考え、状況に応じて工程を変える。
そこには、教科書だけでは身につかない、ものづくりの判断力が必要です。
調色コンテスト、今年の結果は・・・
セミナーの最後には、恒例となった調色コンテストを行いました。

学生さんが仕上げた塗装サンプルを並べ、誰の作品か分からない状態で、色見本への近さや仕上がりを審査します。

同じ色見本を目指した作品でも、赤味が少し強いもの、明るさが僅かに異なるものなど、一枚一枚に違いがあります。
僅差となった今回の結果は・・・
【最優秀賞】荒生 駿斗(あらお はやと)さん。
【優秀賞】直井 敬志(なおい けいじ)さんに決定しました。
お二人とも、難しい水性塗料の調色に粘り強く取り組み、プロ顔負けの見事な色合わせを見せてくれました。
受賞されたお二人、本当におめでとうございました!
お二人の写真も掲載したいところですが、この時私、感極まって写真を撮り忘れてしまいまして(涙)
塗装を知ることは、ものづくりの選択肢を増やすこと

家具や空間をつくるうえで、塗装は最後のお化粧を担う工程です。
その仕上がりは、材料の選び方や家具の設計、使われる場所、将来のメンテナンスにも深く関わっています。
木目を活かすのか、塗りつぶすのか。
艶を出すのか、艶消しで落ち着かせるのか。
自然な手触りを優先するのか、耐久性を重視するのか。
それぞれの塗装には長所と短所があり、用途や使う人に合せて選ぶ必要があります。
今回の2日間で学んだことが、学生さんたちのこれからの家具製作や空間づくりにおいて、選択肢を広げるきっかけになれば幸いです。
最初は慎重に刷毛やスプレーガンを扱っていた皆さんも、最後には自分で仕上がりを確認し、次に何をすべきかを考えながら作業を進めていました。
ただ「塗る」のではなく、木を見て、考えて、仕上がりを組み立てる。
その感覚を少しでも持ち帰っていただけたのなら、講師一同、とても嬉しく思います。
学生の皆さん、2日間にわたる長時間の講義と実習、本当にお疲れさまでした。
皆さんの今後ますますのご活躍を、塗装部一同、楽しみにしています。
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それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
次回もお楽しみに!!
●ニシザキ工芸株式会社塗装部HP
https://tosou.nishizaki.co.jp/
●特注家具・ニシザキ工芸株式会社HP
https://www.nishizaki.co.jp/
木を知り、色を学ぶ2日間――ICS出張家具塗装セミナー2026

去る6月29日(月)と7月1日(水)の2日間、東京都目黒区にある専門学校「ICSカレッジオブアーツ」さんにて、出張家具塗装セミナーを開催しました。
このセミナーは、ニシザキ工芸株式会社塗装部にとって、すっかり毎年恒例の行事となっています。

例年は春頃に開催していますが、今回は諸事情により少し時期がずれ、梅雨真っ只中の6月末から7月始めにかけての開催となりました。

今回も受講して頂いたのは、インテリアマイスター科2年生の皆さんです。
家具製作や内装施工をはじめ、インテリアを形にするための幅広い技術を学んでいる学生さんたち。
私たちは毎年、この2日間を通して家具塗装の基礎知識と実技をお伝えしています。
・・・とはいえ、塗装は単に「好きな色を塗る」だけの仕事ではありません。
木の種類や特徴を見極め、完成形を想像し、必要な工程を組み立てていく。
今回のセミナーでは、そんな「塗る前に見ること、考えること」の大切さを、学生さんたちに体験していただきました。
同じ塗料でも、木が違えば仕上がりも変わる

初日は、木材塗装についての講義から始まりました。
今回も、木材塗装研究会の矢島浩之先生とともに講師を務めさせていただきました。

矢島先生は、長年にわたり木工塗装に携わってきた熟練の技術者であると同時に、塗料を科学的な視点から読み解くスペシャリストです。
塗装の目的や塗料の構成、木材と種類、木目の特徴、塗料の歴史など、幅広い内容を分かりやすく解説していただきました。

例えば、木材には大きく分けて、導管が年輪に沿って並ぶ「環孔材(かんこうざい)」と、小さな導管が全体に散らばる「散孔材(さんこうざい)」があります。

タモやオークなどの環孔材は、導管に色が入りやすく、着色によって力強い木目を表現できます。

一方、シナやメープルなどの散孔材は、塗料の吸い込みによって色ムラが生じやすいため、着色方法に工夫が必要です。
同じ色の塗料を使ったとしても、木材が違えば、まったく同じ仕上がりにはなりません。
そこが木工塗装の難しさであり、面白さでもあります。
大切なのは、いきなり塗り始めるのではなく、まず目の前の木をよく観察すること。
木目は強いのか、穏やかなのか。
色を吸い込みやすい部分はどこか。
木そのものの色を活かすのか、それとも全体を均一に整えるのか。
塗装の仕事は、木と相談することから始まります。
木工塗装は「色のレイヤー」を重ねる仕事

木工塗装の色は、一度の着色だけで決まるとは限りません。
木材が本来持っている色。
木地に直接染みこませる色。
塗膜の中に重ねる色。
さらに、部分的な色の差を補正するための色。
それらを何層にも重ねながら、少しずつ目標とする色へ近づけていきます。
今回の講義では、このような着色の考え方を「色のレイヤー」として説明しました。

家具は、同じ材種を使っていても、部材ごとに色の濃さや赤味が異なることがあります。
赤味が足りなければ赤系の色を薄く重ね、赤味が強すぎれば補色となる緑系をわずかに加える。
一度で正解を出そうとするのではなく、今どの色が不足しているのかを見極め、一層ずつ調整していくのです。
こうした「カラーイング」と呼ばれる技術は、木工塗装を特徴づける重要な技法のひとつです。

色を合わせるために必要なのは、単なる勘やセンスだけではありません。
見本と塗装面を見比べ、違いを分析し、次に加える色を考える。
観察と判断の積み重ねが、美しい仕上がりにつながります。
刷毛塗りにも基本の「型」があります
着色や下塗りには、刷毛塗りに挑戦してもらいました。

刷毛塗りには、「塗料を置く」→「全体に配る」→「均一にならし、刷毛目を整える」という基本的な流れがあります。
一見すると簡単そうに見えますが、実際にやってみると、塗料の量や刷毛を動かす速度、力の入れ方によって仕上がりが大きく変わります。

塗料が少なければかすれてしまう。
多すぎれば端や角に溜まってしまう。
途中で何度も刷毛を返せば、乾き始めた塗料を引っ張り、かえって刷毛目が乱れてしまいます。
最後は木目の方向に沿って、なるべく長く一筆で通す。

言葉で説明を聞くだけでなく、自分の手を動かすことで初めて分かる感覚があります。

学生さんたちは講師の動きをよく観察しながら、真剣な表情で刷毛を動かしていました。
研磨は「削る」ためだけではありません

塗装工程の途中では、何度も研磨を行います。
研磨と言うと、表面をきれいに削る作業を思われがちですが、それだけが目的ではありません。
塗膜表面に細かな傷を付け、次に塗る塗料がしっかりと密着するようにする。
これを「足付け」と呼びます。
研磨が不足していれば、塗膜が剥がれる原因となります。
一方、力を入れすぎれば、せっかく塗った塗膜を削り落してしまいます。
特に家具の角や端は塗膜が薄く、下地が出やすい部分です。
ペーパーから出る研磨粉の色を確認しながら、削りすぎていないか判断する。
サンダーで研磨した後も、最後は木目に沿って手で整える。
派手な作業ではありませんが、最終的な表面の美しさや耐久性を支える、とても重要な工程です。

家具塗装の仕事には完成するとみえなくなってしまう工程がたくさんあります。
けれども、見えない部分をどれだけ丁寧に積み重ねたかは、完成した表面にしっかりと表れるのです。
スプレーガンでは、距離・速度・角度を一定に
続いて、エアスプレーガンを使った塗装に挑戦しました。

スプレー塗装では、塗料の吐出量、空気量、吹き付ける幅(パターン)を調整し、ガンと塗装面との距離を一定に保ちながら動かします。
また、家具は平らな板だけでできているわけではありません。
脚や桟、内側、裏側など、さまざまな形状の部材が組合わされています。

どこから塗り始め、どの方向からガンを当て、最後にどの面を仕上げるか。
立体物をきれいに塗るためには、作業を始める前に塗装の順番を頭の中で組み立てる必要があります。
基本的には、見えにくい裏側や内側から塗り始めて、最後に天板などの目に付きやすい面を仕上げます。
つまり、スプレーガンを上手に扱うことと同じくらい、塗る順番を考えることが大切なのです。
最初は少し緊張した様子だった学生さんたちも、何度か練習するうちに、徐々にガンの動きが滑らかになっていきました。
見本と同じ色を、自分の手でつくる
今回も、塗料の調色実習を行いました。

白をベースに、赤、黄、青、黒などの塗料を少しずつ加え、指定された色見本に近づけていきます。
色はほんの一滴加えただけでも、大きく変化することがあります。
特に青や黒などの強い色は、入れすぎると元に戻すのが難しくなります。
そのため、一気に色を入れるのではなく、ごく少量ずつ加え、よく混ぜて確認します。

試し塗りをした塗料は、乾かしてから見本と比較します。
今回使用した水性塗料を含め、塗料は全般的に濡れている時と乾いた後で色の見え方が変わるからです。
さらに、色は照明によっても違って見えます。
室内では合っているように見えても、自然光の下へもっていくと赤く見えたり、青く見えたりすることがあります。
調色は、焦らずに仮説と検証を繰り返す作業です。

同じ色見本を目指していても、完成した色には一人ひとり微妙な違いが表れました。
その違いもまた、調色の難しさと面白さを物語っています。
古びた表情をつくる、エイジング塗装に挑戦
2日目には、エイジング塗装の実習も行いました。
エイジング塗装とは、新しい木材に、長年使い込まれたような風合いや味わいを与える塗装技法です。

まずは、金づちやビス、鎖やワイヤーブラシなど、様々な工具を使い、木材にあえて傷や打痕を付けていきます。
一見すると「傷をつけてはいけない」と思ってしまいますが、エイジング塗装では、その傷一つひとつが作品の表情になります。

続いて木地着色を行うと、傷の奥や木目に色が入り込み、使い込まれたような雰囲気が少しずつ現れてきます。
さらに最後は、スプレーガンを使ったガンシェーディングを施しました。
スプレーガンを使ってカラークリヤー(着色剤をまぜたクリヤー塗料)を吹き付けます。

縁や角を少し濃く、中央を明るく仕上げることで、立体感や奥行き感が生まれます。
新品だった木材が、まるで何十年もの時を経てきた家具のような表情へと変化していく様子に、学生さんたちからも驚きの声が上がっていました。
エイジング塗装には決まった正解はありません。
「どんな年月を経た家具に見せたいのか」
そのイメージを思い描きながら、傷の付け方や着色、陰影の付け方を工夫していきます。
傷を隠すのではなく、あえて魅力として活かす。
そんな発想も、家具塗装ならではの面白さの一つです。
「塗っていないように見せる」という塗装
近年の家具では、木そのものの質感を残した、ナチュラルな仕上がりが好まれています。
しかし、木に透明な塗料を塗ると、水に濡れた時のように色が濃くなる「濡れ色」が生じます。
そこで、塗料にごく僅かな白を加え、濡れ色を打ち消していきます。

写真左の見本板が無着色で塗装した「クリヤー仕上げ」、右の見本板がごく僅かな白を加えた「白木色仕上げ」です。
白が少なすぎれば木の色が濃くなり、多すぎれば木目が白く隠れてしまう。
木の表情を残しながら、塗っていないように見せる。
実はこれも、高度な調整を必要とする塗装技術なのですが、学生さんたちは器用にこなしていました。
正解は、ひとつとは限らない
こうして、研磨、着色、下塗り、中塗り、カラーイング、特殊仕上げ、上塗りと、たくさんの工程を重ねていきました。

学生さんたちの前には、それぞれ異なる表情を持った塗装サンプルが並びました。
木目を力強く見せたもの。
白木のような自然な色合いに仕上げたもの。
古びた深みを表現したもの。
見本の色へ丁寧に近づけた塗りつぶし仕上げ。
同じ材料や塗料を使っても、作業する人の判断や手の動かし方によって、仕上がりには少しずつ違いが生まれます。
もちろん、仕事として塗装を行う場合には、指定された色や品質へ正確に合せることが求められます。
しかし、その正解へ至る方法は必ずしもひとつではありません。
木の状態を見て、塗料の性質を考え、状況に応じて工程を変える。
そこには、教科書だけでは身につかない、ものづくりの判断力が必要です。
調色コンテスト、今年の結果は・・・
セミナーの最後には、恒例となった調色コンテストを行いました。

学生さんが仕上げた塗装サンプルを並べ、誰の作品か分からない状態で、色見本への近さや仕上がりを審査します。

同じ色見本を目指した作品でも、赤味が少し強いもの、明るさが僅かに異なるものなど、一枚一枚に違いがあります。
僅差となった今回の結果は・・・
【最優秀賞】荒生 駿斗(あらお はやと)さん。
【優秀賞】直井 敬志(なおい けいじ)さんに決定しました。
お二人とも、難しい水性塗料の調色に粘り強く取り組み、プロ顔負けの見事な色合わせを見せてくれました。
受賞されたお二人、本当におめでとうございました!
お二人の写真も掲載したいところですが、この時私、感極まって写真を撮り忘れてしまいまして(涙)
塗装を知ることは、ものづくりの選択肢を増やすこと

家具や空間をつくるうえで、塗装は最後のお化粧を担う工程です。
その仕上がりは、材料の選び方や家具の設計、使われる場所、将来のメンテナンスにも深く関わっています。
木目を活かすのか、塗りつぶすのか。
艶を出すのか、艶消しで落ち着かせるのか。
自然な手触りを優先するのか、耐久性を重視するのか。
それぞれの塗装には長所と短所があり、用途や使う人に合せて選ぶ必要があります。
今回の2日間で学んだことが、学生さんたちのこれからの家具製作や空間づくりにおいて、選択肢を広げるきっかけになれば幸いです。
最初は慎重に刷毛やスプレーガンを扱っていた皆さんも、最後には自分で仕上がりを確認し、次に何をすべきかを考えながら作業を進めていました。
ただ「塗る」のではなく、木を見て、考えて、仕上がりを組み立てる。
その感覚を少しでも持ち帰っていただけたのなら、講師一同、とても嬉しく思います。
学生の皆さん、2日間にわたる長時間の講義と実習、本当にお疲れさまでした。
皆さんの今後ますますのご活躍を、塗装部一同、楽しみにしています。
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それでは今回はこの辺で。
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